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【事例】
X弁護士は、窃盗罪で勾留中のAさんの国選弁護人として選任され、接見に行きました。
数日間は何事もなかったのですが、ある日接見に行くと、Aさんから次のようなことを言われました。
ケース1
「先生はすごくよくやってくれていると思う。でも、国選弁護人は報酬が低いということを聞くし、それでは先生に申し訳ない。先生を改めて私選弁護人として選任して、費用はお支払いしたいと考えています」
ケース2
「先生に相談があるのです。実は、私は事件の直前に交通事故の被害に遭っていて、加害者の保険会社と示談交渉をしていました。先生を見込んで、この示談交渉について依頼をしたいと考えています。この示談交渉についての弁護士費用は、別途きっちりお支払いします。」
各ケースにおいて、X弁護士は事件を受任してもよいのでしょうか?
【解説】
ケース1について
まず、国選弁護人が同一事件の私選弁護人となれるかどうかについて検討しましょう。
弁護士職務基本規程49条2項によると、「弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し、その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合は、この限りでない。」とされています。この規程によれば、たとえばX弁護士が、「私選弁護人に切り替えてくれれば、もっとよく接見に来たりする」などというような発言をしていた場合に問題が生じることになります。この規程は「働きかけ」を禁じているものですから、何らの働きかけがなく、本人の方から自発的に私選への切り替えを要望してきた場合には問題がないように思われます。
しかし、同項には但書があり、各単位会の会則などで別段の定めがなされている場合があります。『解説 弁護士職務基本規程(第3版)』をご確認いただければわかりますが、単位会によっては刑事弁護委員会の許可がない限り私選への切り替えを認めない運用をしているところもあります。ですので、働きかけがなかったからといって、直ちに私選弁護人になってよいというものではありません。必ず事前に所属の単位会の会則を確認する必要があります。
ケース2について
ケース2の場合には、元の事件とは全く別の事件の依頼を受けています。これであれば許されるのでしょうか。
ただ、仮にケース2で委任契約を締結すると、当然X弁護士にはいくらかの報酬が支払われることになります。
弁護士職務基本規程49条1項によると、「弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領してはならない。」とされています。確かに、別の事件での報酬であれば「国選弁護人に選任された事件について」の報酬ではないので、規程に反さないように思われます。また、今回の事件のように被害弁償を要することが予想される事件において、資力確保のための活動(今回でいえば、交通事故の賠償金の回収)を行うことは有益であるとも言えます。
そのため、X弁護士の受任が禁止されるようなものではありませんが、たとえば報酬が通常以上に高額な契約になっている場合には、対価の受領ではないかという疑いが生じます。法テラスを利用しての契約であれば問題が生じる可能性は生じにくいと考えられるので、法テラスの利用などを検討する必要があります。