【事例】
X弁護士は、Aさんから建物収去土地明け渡しの訴訟提起を依頼されていました。事件の内容は、Aさんが所有する土地の上に、第三者であるBさんが無権原で建物を建てたという事案でした。ただ、訴訟にかかる費用を節約するため、最初から訴訟提起をするのではなく、まずは交渉で明け渡してもらえないか試してみるということになりました。
そこで、X弁護士はBさん個人との間で和解ができないかを考え、Bさんと何度か電話でやり取りをしていましたが、あるとき、Bさんから以下のような話がありました。
「先生とこれまで何度かやり取りしていて分かるのですが、先生はとても言い方だと思います。実は、私の妻の妹が交通事故に遭い、亡くなるということがありました。先生が代理人となって保険会社や相手方と交渉してもらえませんか?」
この話を聞いたX弁護士としては、どのように対応すればよいでしょうか。
【解説】
事件の相手方に信頼されること自体は、交渉を進める上で悪いことではありませんが、かといって事件の依頼を受けるとなると話は別です。
それでは、まずは利益相反に当たらないかを検討します。
現在X弁護士が受任している事件は、建物収去土地明け渡し事件であり、交通事故の損害賠償事件とは全く異なる種類の事件であると言えます。また、当事者も一切共通していないことが予想されます。
そうすると、各種利益相反の規程には該当しないようにも思われますので、受任してもよさそうに思われます。
しかし、事件の相手方から紹介を受けた事件を受任した場合、元の事件の依頼者からすると、当然不信感を覚えると思われます。特に、紹介を受けた事件の方が報酬が高いことが予想されるような場合には、自分の事件の処理について手を抜かれるのではないかと思うのが通常です。仮に元の事件の依頼者に受任したい旨を相談した場合には、断られることが予想されます。
そのため、このような場合には、仮に利益相反に該当しないとしても、弁護士の信義誠実の義務(弁護士職務基本規程5条)に該当する可能性が高いと思われますので、受任を差し控えるべきであると思われます。ただし、これは元の事件が現在進行中の事件であることによる部分が大きいと言えます。元の事件が既に終了している場合には、もう少し緩やかに検討する余地はあるかもしれません。その場合でも、元の依頼者が知ったとすれば「当初からそのような密約があったのでは」との疑いを招く可能性があります。ですので、受任に際しては十分注意する必要があります。