【事例】
X弁護士は、ある刑事事件の国選弁護人に選任され、第1回公判に弁護人として出席した。
裁判が終わった後、法廷を出たところで、記者の腕章をつけた人物から声をかけられた。
「○○新聞の△△です。被告人であるAさんは、事件について今どのようなお話をされているのでしょうか」
さて、この問いかけに答えてよいのであろうか。
【解説】
社会的に耳目を集める刑事事件等の場合には、法廷で記者の方が傍聴されている場合があります。もちろん傍聴自体は権利ですし、傍聴した内容を記事にすることも、裁判の公開という原則からは問題ありません(ただし、被害者保護やプライバシーの観点からの制約はあり得ます)。
ただ、中には公判終了後に裁判所の廊下で、弁護士が記者から話しかけられるということもあります。そのとき、弁護士はどのように対応する必要があるのでしょうか。
弁護士法23条や弁護士職務基本規程23条で、秘密保持義務、いわゆる守秘義務が定められています。文言は少し異なりますが、要するに事件処理の過程で知り得た情報を理由なく漏らしてはならないというものです。
上記のようなマスコミからの取材は、被告人の今の声を求めるものですから、当然「秘密」に該当します。そのため、本人からの了解があれば回答することができますが、そのような場合以外は回答すべきではありません。在宅事件であれば、本人が横にいるのでその場で協議できないわけではありませんが、身柄事件の場合にはすぐに本人と話すことはできません。マスコミが来そうな事件であれば、予め本人と対応を協議しておくことも1つの方法だと思われます。
また、事件の内容によっては、本人の言い分をマスコミを通じて世間に知らせることも有効になるかもしれません。そのような類型の事件である場合には、記者会見を設定するなどして、積極的にマスコミを利用することも考えられる手段です。ただし、これも本人の同意が必要です。
それでは、その直前の公判で明らかになった(かつ争いもない)事実について、確認の意味で再び尋ねられた場合(たとえば、「○○という事件で、本人はお認めなんですよね」と聞かれた場合)に回答することは問題ないのでしょうか。一見すると、直前の公判で公開されている出来事ですので、「秘密」に当たるような事柄ではないように思えます。確かにそうとも言えるのですが、公判で裁判官に対して認めるのと、記者に認めるのでは、その意味合いが異なるように思われます。少なくとも公判では何らかの応答をしなければならないのに対し、記者に対しては応答しなかったからといって問題があるわけではありません。その意味で、仮に公になった事実であったとしてもそれをそのまま記者に話していいとは言い切れないように思われます。
マスコミからの対応依頼があった場合には、一旦持ち帰り、本人と協議をしてから回答する方が妥当のように思われます。