【事例】
看護師であるAさんは、勤務中入院患者の態度にイライラしてしまったことから、つい患者を殴ってしまいました。
たまたまそのことを同僚に目撃されており、Aさんの行為は暴行罪として警察に被害届が提出されました。
最終的にAさんは罰金10万円を支払っています。
このとき、Aさんの看護師免許はどうなるのでしょうか。
【解説】
1 看護師に対する行政処分
保健師助産師看護師法14条によると「保健師、助産師若しくは看護師が第九条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」とされています。
そして、9条は「一 罰金以上の刑に処せられた者 二 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者 三 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの 四 麻薬、大麻又はあへんの中毒者」として、4つの事由を定めています。
1号を見ると「罰金以上の刑に処せられた者」とあります。これは罪名を問いませんので、たとえ職務に関係のない私生活上の出来事で罰金を受けたとしても、看護師免許に影響が生じる可能性があります。
2 行政処分の実情
看護師に対する行政処分は、医道審議会(保健師助産師看護師分科会看護倫理部会)で議論されています。
そして、その処分の内容は、公表されており、おおよそ1年に1回程度まとめて看護師に対して処分が出されていることが分かります。
たとえば、直近の令和6年11月7日の会議では、24名に対して行政処分が出され、12名に対して行政指導がなされています。
一つ一つ見ていくと、Aさんと同じ系統の罪名として「傷害」であっても、業務停止1年となっているものや、2年、8月と様々な長さの処分がなされていることが分かります。
これは司法判断の重さに影響されている面もあります。たとえば、同じ傷害であっても、かすり傷程度であれば罰金刑で済むのに対し、骨折以上のけがをさせてしまったような場合には懲役刑が選択される可能性が高いなど、怪我の程度によって刑事処分の重さが変化してきます。そして、厚生労働省が処分をするにあたっては、おそらく刑事処分の程度をそれなりに重視していると思われます。そして、その処分の重さが、業務停止期間の長さに反映されていると思われます。
3 Aさんの場合はどうか
Aさんの場合、罪名は暴行と、傷害より軽い罪です。しかし、患者に対する暴行であるため、私生活上の行為よりは重く判断される可能性が高いと思われます。これは行政処分だけではなく、刑事処分を考える上でも同様です。
そのため、免許に対する処分を回避するためには、まず被害者の方に謝罪をし、示談をした上で刑事罰を回避することが必要となります。