【事例】
X弁護士は、Aから依頼を受け、交通事故不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。
事件内容としては、歩行者であるAが交差点内でBが運転する乗用車と接触し、怪我をしたという単純なものです。そこで、Aが原告となり、Bや保険会社を被告として訴訟提起しました。
ある日、X弁護士は、週刊誌の記事でBの出生にまつわる秘密についての噂が記載された記事を見ました。そこで改めて訴訟記録を確認すると、Bの戸籍や刑事事件記録から見ても、その噂が真実であると確信できるような記載がなされていました。
そこで、X弁護士は、この事実を秘匿しておく代わりに、赤い本の5倍の慰謝料をBに請求しようと考えています。このようなことは許されるのでしょうか。
【解説】
弁護士としては、依頼を受けた依頼者の利益を最大化することが基本的な職務となります。金銭を求める賠償訴訟であれば、訴訟自体に特別な意味があるというような場合を除き、基本的には金額が大きくなればなるほど、原告側(請求する側)としては利益が大きくなったと考えられます。
そうすると、弁護士は1円でも多く獲得する(反対側なら1円でも支払額を少なくする)ことが良いように思われますが、かといってこれに何の制限もないとも言えません。
弁護士職務基本規程21条によれば、「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。」とされています。また、同20条は「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。」ともされています。そのため、いくら依頼者が希望したからといって、正当な理由なく過剰な請求をすることは基本規程に違反するものと考えられます。
今回の事例のように、訴訟に全く関係のない点を持ち出し、半ば口封じのためのお金を要求するようなことは、正当な利益の実現とは言えません。特に、交通事故の場合には赤い本等の基準が定まっており、これを大きく逸脱する請求をする限りには、相応の理由が必要となると考えられます。
そのため、このままX弁護士が5倍もの慰謝料請求をすると、懲戒を受ける可能性が生じます。ですので、このような過剰請求は許されないと考えられます。