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【弁護士が解説】弁護士として追求すべき正当な利益とは?
【事例】
X弁護士は、Aから建物収去土地明渡の依頼を受けました。
Xは、まずは交渉したほうが経済的負担が少ないと考えたため、土地上に建物を建築して占有しているBに直接会いに行きました。
Bはその建物内にいたのですが、X弁護士との話が全くかみ合わず、建物内も相当荒れ果てていました。少なくともX弁護士の話はほとんど理解できていないような様子でしたし、書類がたくさん散乱している様子から見ても、認知症ではないかと思われる状態でした。
以上のような様子を見て、X弁護士はこれ以上話し合っていても仕方ないと考え、Bを被告として建物収去土地明け渡し訴訟を提起しました。
すると、訴状は送達されたようですが、Bからは答弁書の提出もなく、そのまま欠席判決となってAが勝訴しました。
そしてこの勝訴判決に基づいて、Xは強制執行を断行しましたが、執行当日もBは以前と変わりない様子で、Xのことすらも忘れているようでした。
X弁護士の対応に問題はあるのでしょうか。
【解説】
依頼者Aからすれば、これ以上ない結果をもたらしており、Xの行為に問題はなさそうです。
ただ、XがBに会いに行った段階で、訴訟提起をしたとしてもBが防御権を行使することは不可能であろうと予想される状態でした。そのため、Xが訴訟提起をすればほぼ確実に欠席判決となり、勝訴できるという見込みがあったもので、Xからすればある意味当然の結果とも言えます。
弁護士としてこのような対応をすることが問題ないのでしょうか。
この事案は、実際にあった事案を少し改変しています。実際の事案では、弁護士職務基本規程5条、6条、21条、74条に違反するとされています。
相手方を利するような行為をすることは、依頼者に対する誠実義務との関係で緊張関係が生じます。しかし、弁護士である以上、無防備の人間を相手に法的手段をとることは、品位を失うと言われてしまう可能性があります。
今回の事例の場合、Bの戸籍等を調査し、親族がいるようであれば成年後見の申立てを依頼したり、仮に親族がいないような場合であっても、市町村長による申立ての手段を検討するなど、Bの防御権を行使させる方法は存在するように思われます。そのため、防御権行使のための検討をしなかった場合、X弁護士が懲戒を受ける可能性も否定できません。
もっとも、弁護士がどの程度Bの状況を認識していたのか、Bが受ける不利益の程度はどのくらいであるのかによっても結論は左右されます。建物収去土地明渡の場合、簡単に言うと住むところがなくなり、財産を失うわけですから、その不利益は相当大きいものといえます。不利益が大きくなればなるほど、防御権を行使させsる必要性が高いと言えます。反対に、Bに対する認識が小さいほど、Xとして取りうる手段を検討する機会が少なくなってきますので、Xが訴訟提起することがやむを得ないと評価されるようになります。
弁護士としては、勝てばよいという考えだけではなく、法律家としてその振る舞いが適切であるかということも評価の基準となっていることを意識する必要があります。
【弁護士が解説】対立当事者からの直接の連絡にはどう対応すべきか?
【事例】
X弁護士は、Aから建物収去土地明け渡し訴訟の依頼を受け、Bを被告として訴訟提起をした。
第1回口頭弁論前に、Bには代理人としてYが選任され、Yから答弁書が提出された。
弁論準備手続が何回か経過した後、裁判所から和解の話を持ち掛けられ、当事者双方が持ち帰り検討することになった。
ある日、Xの事務所にBから連絡があり、Bは以下のようなことを述べた。
「裁判所から出された和解案なのですが、もう少し金額を上乗せしてもらえないでしょうか。そうすれば応じることも考えたいと思っています。また、明け渡しの期限も少しだけ猶予をください。もし、先生の方でお考えいただけるようであれば、その結果を私の方に連絡してください。Y先生に連絡しても、どうせ私のところに連絡が来て、判断するのは私ですので、それなら直接電話をください」
X弁護士は、Bのいうように電話してよいのでしょうか。
【解説】
弁護士職務基本規程52条は「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」と定めています。
今回のYが「法令上資格を有する代理人」であることは争いありませんので、問題はしてはいけないと定められている相手方との「交渉」の範囲が問題となります。
交渉を辞書的に考えると、「話し合うこと」「かけあうこと」という意味になります。そのため、言わゆる示談交渉などを行うことは当然許されませんし、和解交渉を行うことも許されません。また、交渉の方法も限定されていませんので、対面で面会する以外にも、電話やメール、郵便物を送ることも許されません。
反対に、時効の援用や解除の意思表示というような、一方的な通知であれば、差し支えないと考えられます。それでも、相手方に対して何か応答を求めるような文言を記載することは、直接交渉になりかねませんので、差し控えるべきであると言えます。
それでは事案について検討をします。
まず、XはBから電話があり、その話を聞いています。これ自体は、かかってきてしまった以上、やむを得ないところです。もちろんXとしては、話の内容が和解条項に及びそうになった段階で「そういう話は代理人のY先生を通して伝えてください」という風に対応する方が望ましいように思われますが、話を聞く(ただし、それについて何も弁護士側から応答しない)だけであれば、弁護士が交渉をしているわけではないので、規程には該当しないように思われます。ただし、できれば「私の方から、Y先生にこのようなお電話があったことはお伝えしてよいでしょうか」と尋ね、Y弁護士に連絡をしておいた方がよいと思われます。反対に、ここでYへの連絡を拒絶するような場合には、YとBの間で問題が生じている可能性が高く、今後の対応方法についてより一層慎重になる必要があります。
次に、XがBに返事の連絡をする行為ですが、これは仮に「そのままお受けします」であったり、「お断りします」というような一方的な通知であったとしてもするべきではありません。和解の交渉ですから、さらなる提案がある可能性は十分ありますし、仮に受けるにしても場所や受け渡し方法の調整など、他に交渉すべき事項は残っています。ですので、相手方当事者への直接の連絡は、代理人がいる場合にはするべきではありません。
【弁護士が解説】介護福祉士が交通事故を起こした場合国家資格はどうなるのか
【事例】
介護福祉士であるAさんは、ある日通勤途中、自動車で交通事故を起こしてしまいました。
幸い被害者の方は全治2週間程度のけがではあったものの、警察の方からは事件を検察庁に送ると言われました。
Aさんはどのような刑事罰を受け、それによって介護福祉士の資格はどうなるのでしょうか。
【解説】
2 介護福祉士資格について
それでは、前回に引き続いて、今回は交通事故により介護福祉士の資格がどうなるかを解説していきます。
⑴欠格事由
国家資格が何らかの制限(剥奪されたり、効力が一時停止したり)を受けることになる事由のことを「欠格事由」と呼んでいます。欠格事由は、資格を取得するときに問題となっていますが、同様の事由が生じた場合には資格を取消すということになっています。
そして、介護福祉士についての欠格事由を定めているのは、社会福祉士及び介護福祉士法3条です。
(欠格事由)
第三条次の各号のいずれかに該当する者は、社会福祉士又は介護福祉士となることができない。
一 心身の故障により社会福祉士又は介護福祉士の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して二年を経過しない者
三 この法律の規定その他社会福祉又は保健医療に関する法律の規定であつて政令で定めるものにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して二年を経過しない者
四 第三十二条第一項第二号又は第二項(これらの規定を第四十二条第二項において準用する場合を含む。)の規定により登録を取り消され、その取消しの日から起算して二年を経過しない者
これが欠格事由になります。全部で4つ欠格事由が定められています。
1は規則に細かい規定があり、「精神の機能の障害により社会福祉士又は介護福祉士の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」とされています。
2が今回問題となる規定ですので後述します。
3は、同じ刑事罰でも福祉関係の法令に違反した場合です。2が「禁錮以上」となっているのに対し、3は「罰金」となっています。罰金の方が軽い刑罰ですので、福祉関係の法令に違反した場合にはより軽い刑事罰でも欠格事由となります。
4は一度欠格事由があって資格を取消された場合の規定です。仮に欠格事由が生じたとしても試験に合格した事実自体は残りますので、形式的には再度登録できるように思われます。しかし、この規程によって2年間は再登録ができないようになっています。
⑵刑事罰と国家資格
さて、それは本題の刑事罰を受けた場合の資格について検討します。
2号で「禁錮以上の刑」と定められています。刑事罰の重さは死刑>懲役>禁錮>罰金>拘留>科料と定められていますので、禁錮以上の刑は死刑・懲役刑・禁錮刑を指します。反対から言えば、罰金刑であればこの規定に該当しないことになります。つまり、交通事故によって罰金刑を受けた場合や当然ですが不起訴処分になった場合には、資格を取消されたりすることはないということになります。
それでは禁錮刑を受け、その刑に執行猶予が付けられた場合はどうでしょうか。
執行猶予とは、裁判が確定した後すぐに刑務所等に収容されるのではなく、執行猶予期間中無事に過ごせば収容されないという判決です。反面、執行猶予中に再び裁判を受けるようなことがあれば、基本的には刑務所に行かなければならない(もう一度執行猶予になることはほとんどない)という判決です。たとえば「禁錮1年執行猶予3年」という判決の場合、「もし3年間何もせずに過ごすことができれば、刑務所にはいかなく構いません。ただし、3年以内に再び裁判を受けるようなことがあれば、新しく犯した罪の刑罰に、追加して1年刑務所に入ってもらいます」という意味になります。
話を戻すと、交通事故で人をけがさせた場合、余程重大な事情(前科があるとか、飲酒運転であるなど)がない限りは執行猶予がつくことがほとんどです。しかし、先ほどの欠格事由の条文には執行猶予を除外する規程はありませんから、仮に執行猶予がついたとしても資格は取り消されることになります。
交通事故は誰でも起こしてしまう可能性があるものですが、一つ間違えると運転免許以外の資格さえ剥奪されてしまうものになります。これを回避するためには初動の対応が重要です。資格のことでご不安な方は、いち早く弁護士にご相談ください。
【弁護士が解説】国選弁護人が担当被疑者の事件の私選弁護人となってよいか
【事例】
X弁護士は、窃盗罪で勾留中のAさんの国選弁護人として選任され、接見に行きました。
数日間は何事もなかったのですが、ある日接見に行くと、Aさんから次のようなことを言われました。
ケース1
「先生はすごくよくやってくれていると思う。でも、国選弁護人は報酬が低いということを聞くし、それでは先生に申し訳ない。先生を改めて私選弁護人として選任して、費用はお支払いしたいと考えています」
ケース2
「先生に相談があるのです。実は、私は事件の直前に交通事故の被害に遭っていて、加害者の保険会社と示談交渉をしていました。先生を見込んで、この示談交渉について依頼をしたいと考えています。この示談交渉についての弁護士費用は、別途きっちりお支払いします。」
各ケースにおいて、X弁護士は事件を受任してもよいのでしょうか?
【解説】
ケース1について
まず、国選弁護人が同一事件の私選弁護人となれるかどうかについて検討しましょう。
弁護士職務基本規程49条2項によると、「弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し、その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合は、この限りでない。」とされています。この規程によれば、たとえばX弁護士が、「私選弁護人に切り替えてくれれば、もっとよく接見に来たりする」などというような発言をしていた場合に問題が生じることになります。この規程は「働きかけ」を禁じているものですから、何らの働きかけがなく、本人の方から自発的に私選への切り替えを要望してきた場合には問題がないように思われます。
しかし、同項には但書があり、各単位会の会則などで別段の定めがなされている場合があります。『解説 弁護士職務基本規程(第3版)』をご確認いただければわかりますが、単位会によっては刑事弁護委員会の許可がない限り私選への切り替えを認めない運用をしているところもあります。ですので、働きかけがなかったからといって、直ちに私選弁護人になってよいというものではありません。必ず事前に所属の単位会の会則を確認する必要があります。
ケース2について
ケース2の場合には、元の事件とは全く別の事件の依頼を受けています。これであれば許されるのでしょうか。
ただ、仮にケース2で委任契約を締結すると、当然X弁護士にはいくらかの報酬が支払われることになります。
弁護士職務基本規程49条1項によると、「弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領してはならない。」とされています。確かに、別の事件での報酬であれば「国選弁護人に選任された事件について」の報酬ではないので、規程に反さないように思われます。また、今回の事件のように被害弁償を要することが予想される事件において、資力確保のための活動(今回でいえば、交通事故の賠償金の回収)を行うことは有益であるとも言えます。
そのため、X弁護士の受任が禁止されるようなものではありませんが、たとえば報酬が通常以上に高額な契約になっている場合には、対価の受領ではないかという疑いが生じます。法テラスを利用しての契約であれば問題が生じる可能性は生じにくいと考えられるので、法テラスの利用などを検討する必要があります。
【弁護士が解説】書面での表現はどこまでであれば許されるのか
【事例】
Aさんから離婚調停の委任を受けたX弁護士は、Aさんの配偶者(B)側が提出してきた準備書面について、Aさんと対応を協議していました。
Aさんとしては、準備書面の内容は事実無根であり、そのようなことを言っている配偶者は決して許すことができないと強く憤っています。
そこで、AさんはX弁護士に対して強い反論を書いてほしいと思っています。
X弁護士の立場で、以下のような表現をすることは許されるでしょうか。
①Bは平気でうそをつく性格を有することは明らかであり、嘘で固めた人生を送っている
②Bのごね得は許されるべきではなく、これらすべてが演技であったとすれば俳優顔負けである
③Bの主張する事実は全て虚偽のものであり、良心のかけらも見出されない
【解説】
弁護士職務基本規程6条によれば、「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。」とされています。
弁護士法56条の懲戒事由に「その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたとき」という規程が設けられていることからしても、弁護士が品位を失うような行為をした場合には、何らかの懲戒処分を受ける可能性があります。
弁護士が職務上作成する書面は、基本的には読者が外部に存在するケースがほとんどです。また、その読者は、たいていの場合対立する当事者や裁判所であったりします。そうすると、どうしても依頼者の意向などに流され、過激な表現となってしまうケースがあります。
弁護士としての表現が過激であった場合、それが不必要なものであると判断されてしまうと、品位を失うようなものとして懲戒を受ける可能性があります。なお、たとえば当事者らの発言を引用する形で書面を作成し、その発言内容自体が過激なものであった場合は、弁護士が行った表現というわけではありませんから、それを理由として懲戒を受けるということは考えにくいと思われます。
上記に記載した①~③の事例は、いずれも実際に懲戒を受けた事案で問題となった表現を参考に作成したものです。「こんなこと書くわけないだろう」と思われたかもしれませんが、実際にこれに近い表現の書面が出されたことがあります。
このような書面とならないよう、冷静な目で書面を作成し、依頼者に対しては懲戒の可能性や、裁判官の心証(おそらく、過激な表現をしても心証は良くならないばかりか、かえって悪化すると思われます)の点について説明を尽くし、合理的な範囲に収めることが必要となります。
前科がつくと保険医の資格はどのようになるのか
【事例】
医師であるAさんは、盗撮事件を起こしたことにより、性的姿態等撮影法により略式罰金となりました。
医師免許についての懲戒処分があることは市っていますが、その他にどのような処分があるのかを検討しています。
【解説】
1 保険医とは
医師法に基づく「医師免許」は、国内で医業を行うために必要なものとされています(医師法17条)。
「医業」とは「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為を、反復継続する意思を持って行うこと」と考えられています。
そのため、いわゆる美容整形のような自費診療であっても、人体に危害を及ぼすようなものですから、医師免許がなければしてはいけません。なお、「反復継続する意思」が必要とされていますが、1回目の行為であったとしてもその意思がある場合には医師法違反、傷害罪となります。
この「医師免許」の有無とは別に、保険診療を行うことができるかどうかという問題があります。美容整形のような自費診療を除けば、多くの国民は国民健康保険等の保険を利用して、3割等の一部負担割合で診療を受けています。この健康保険を用いた医療を行うことができる資格のことを「保険医」と呼んでいます。
そして、保険医となるためには、厚生労働大臣の登録を受けなければなりません。これを定めているのが「健康保険法」です。
健康保険法64条では、「保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師若しくは歯科医師又は保険薬局において健康保険の調剤に従事する薬剤師は、厚生労働大臣の登録を受けた医師若しくは歯科医師(以下「保険医」と総称する。)又は薬剤師(以下「保険薬剤師」という。)でなければならない。」としており、保険医でなければ健康保険の診療に従事できないとしています。
そして、個人の医師が保険医として登録されるためには「第六十四条の登録は、医師若しくは歯科医師又は薬剤師の申請により行う。」とされています(71条)。
2 保険医の欠格事由
健康保険法81条は、保険医の登録を取り消す場合を定めています。その欠格事由は次の通りです。
①省令で定める保険診療をしなかった場合
②厚生労働大臣からの資料提出の求めなどを拒絶した場合等
③健康保険法以外の法律に基づく診療等について①②のような事由があった場合
④健康保険法その他国民の保険医療に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなる者に該当するに至ったとき
⑤禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者に該当するに至ったとき
⑥保険医が国民健康保険法等の法律で政令で定めるもの又は法律に基づく命令処分に違反したとき
とされています。
このうち、刑事罰に関するものは④⑤となりますので、その点を見ていきます。
④は、健康保険法等保険診療に関する法律違反により罰金の刑に処せられた場合です。刑罰の重さは死刑>懲役≧禁錮>罰金>拘留>科料というようなイメージです。懲役、禁錮は、いずれも刑務所に収容するという刑なのですが(執行猶予がついた場合を除く)、刑務作業を義務付けられているかどうかが異なります。ただ、この2つは、数年後に拘禁刑というものに統一されることが予定されています。
保険制度を裏切るような罪を犯した場合には、比較的軽微な刑罰である罰金相当の場合であっても、登録取消が予定されています。
⑤は、全ての刑事罰違反を対象としたものです。殺人から交通事故、万引きに至るまで、医師の診療と関係あるかどうかを問わず、保険医が何らかの刑事罰を受けたかどうかを問うものです。ただ、保険診療と関係ないことを理由としますので、罰金よりも重い禁錮以上の刑を受けた場合に限定されています。
今回のA先生の場合は、いわゆる盗撮罪で処罰されたもので、保険診療とは関係ありません。そのため、⑤の条文が問題となりますから、罰金刑であれば保険医登録は取り消されないということになります。ただ、あくまでもこれは保険医の登録の問題ですから、医師免許に対する処分とは異なります。医師免許に対する処分として、医業停止以上の処分が出た場合には、医業自体を行うことができなくなりますから、自動的に保険医としても業務ができなくなります。
医師が禁錮以上の刑罰を受けてしまうと、保険医としての登録が取り消される可能性があります。国民皆保険制度がある日本では、保険医の登録を失うことは医師として働けなくなることに等しいとも言えます。
そのため、医師が何らかの罪を犯してしまった場合には、刑事罰を受けなくて済む、仮に受けるとしてもできる限り軽い処分となるよう、速やカニ弁護活動を受ける必要があります。
【弁護士が解説】利益相反しかねない事例で、後から来た事件を受けることは許されるか
【事例】
X弁護士は、Aさんから建物収去土地明け渡しの訴訟提起を依頼されていました。事件の内容は、Aさんが所有する土地の上に、第三者であるBさんが無権原で建物を建てたという事案でした。ただ、訴訟にかかる費用を節約するため、最初から訴訟提起をするのではなく、まずは交渉で明け渡してもらえないか試してみるということになりました。
そこで、X弁護士はBさん個人との間で和解ができないかを考え、Bさんと何度か電話でやり取りをしていましたが、あるとき、Bさんから以下のような話がありました。
「先生とこれまで何度かやり取りしていて分かるのですが、先生はとても言い方だと思います。実は、私の妻の妹が交通事故に遭い、亡くなるということがありました。先生が代理人となって保険会社や相手方と交渉してもらえませんか?」
この話を聞いたX弁護士としては、どのように対応すればよいでしょうか。
【解説】
事件の相手方に信頼されること自体は、交渉を進める上で悪いことではありませんが、かといって事件の依頼を受けるとなると話は別です。
それでは、まずは利益相反に当たらないかを検討します。
現在X弁護士が受任している事件は、建物収去土地明け渡し事件であり、交通事故の損害賠償事件とは全く異なる種類の事件であると言えます。また、当事者も一切共通していないことが予想されます。
そうすると、各種利益相反の規程には該当しないようにも思われますので、受任してもよさそうに思われます。
しかし、事件の相手方から紹介を受けた事件を受任した場合、元の事件の依頼者からすると、当然不信感を覚えると思われます。特に、紹介を受けた事件の方が報酬が高いことが予想されるような場合には、自分の事件の処理について手を抜かれるのではないかと思うのが通常です。仮に元の事件の依頼者に受任したい旨を相談した場合には、断られることが予想されます。
そのため、このような場合には、仮に利益相反に該当しないとしても、弁護士の信義誠実の義務(弁護士職務基本規程5条)に該当する可能性が高いと思われますので、受任を差し控えるべきであると思われます。ただし、これは元の事件が現在進行中の事件であることによる部分が大きいと言えます。元の事件が既に終了している場合には、もう少し緩やかに検討する余地はあるかもしれません。その場合でも、元の依頼者が知ったとすれば「当初からそのような密約があったのでは」との疑いを招く可能性があります。ですので、受任に際しては十分注意する必要があります。
【弁護士が解説】組織内弁護士が、自身の組織内で違法な行為が横行していることを発見した場合にはどのように対応すればよいか
【事案】
X社は、インフラ部門で大きな利益を上げ、業界最大手に数えられていた。
しかし、X社内部では、実は不正な取引が行われており、その結果見かけ上利益が大きくなっているような状況であった。X社では、自社の商品をグループ企業に買い注文をさせ、あたかも売買が成立したかのように装いそれを売却したことにしていた。しかし、実際にはグループ内での売買であるため、商品自体は一切動いていなかった。このようなスキームを利用し、需要が増大しているように装って単価を上昇させ、利益を上げるという方法が10年以上にわたって続けられていた。
X社の法務部門にいる弁護士として、このようなスキームを発見した場合にはどのように対応すべきであるか。
【解説】
事案のスキームは、実際にアメリカで行われたエンロン事件を参考に、簡略化したものになります。
そして、このエンロン事件では、会計事務所や顧問法律事務所も粉飾決算に手を貸し、全体で違法なスキームを継続していたことが明らかになりました。担当していた会計事務所は大手の事務所であったものの、この件により信用を失い、最終的には閉鎖されるに至っています。
上記の事案では、これと異なり、社内に弁護士がいるという設定になっています。
近年、弁護士の職域拡大の結果、企業内の弁護士が増加してきました。ただ、企業内の弁護士は、会社に対する義務を負っているのと同時に、弁護士としての義務(倫理)も負っています。
弁護士職務基本規程50条は「官公署又は公私の団体(弁護士法人を除く。以下これらを合わせて「組織」という)において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士(以下「組織内弁護士」という)は、弁護士の使命及び弁護士の本質である自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。」と定め、同51条は「組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとしていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとらなければならない。」と定めています。
あくまでも、①担当する職務に関するものに限定され、たまたま知った者は含まないこと②法令に違反する行為を行い又は行おうとしている場合に留まり、行うおそれがある場合を含まないこと③内部での適切な措置を求めるにとどまり、外部通報まで求められていないこと等には注意が必要ですが、それでも、組織の一員であるということを理由に、組織の意向をそのまま受け入れてよいということにはなりません。
ですので、事案のような違法行為に気が付いた弁護士は、法令違反となることを等を説明し、違法行為を行わないよう説得することが必要であると言えます。
【弁護士が解説】医師免許取消処分の取り消し訴訟ではどのようなことが行われるか
【事案の概要】
X医師は、精神科医として、クリニックを開業していた。しかし、X医師が自身の患者である女性ら3名に対し、胸を触るなどのわいせつ行為をしていることが明らかとなり、X医師は第一審の地方裁判所で実刑判決を受けた。しかし、控訴をした結果、X医師には執行猶予が付されることとなり、最終的に執行猶予付きの刑が確定した。
刑が確定したことから、A県の担当者に調査が行われ、医道審議会に意見書が提出された。同意見書には「X医師は、被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており、その他贖罪寄付もしている。また、今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている」との理由から「X医師は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます」との意見が述べられた。この意味について、担当したA県によれば、医業停止処分に留める意味合いも含めての意見ではあるが、免許取消処分を望まないという意見までは含まれていなかった。
このような状況で、厚生労働大臣は、Xの免許を取り消したため、Xが裁判所に訴えを提起した。
(名古屋地裁平成20年2月28日判決の事案を若干改変したもの)。
【解説】
これから数回にわたり、この事案を元にして、医師免許に対する行政処分の流れや、これに対する争い方を見ていきたいと思います。全体の流れは以下の通りです
・事件から免許取消処分まで(前々回)
・裁判所への訴訟提起(前回)
・裁判所の判断方法、争い方(今回)
・判決後
今回は裁判所の判断方法についてお話しします。
1 行政庁の裁量
行政事件訴訟法では、裁量処分について裁判所が行政処分を取り消すことができる場合について、30条で「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」と定めています。
裁量処分とは、処分を行うかどうか、行うとしてどの程度の処分にするかについて行政庁に裁量がある処分を指しています。医師法の場合、7条1項で「医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としていますので、医師免許の取消しや業務停止は裁量処分となります。
裁判所で処分の取り消しをが認められるのは、裁量権の逸脱や濫用があった場合に限られます。なお、処分についての瑕疵が重大であり、瑕疵があることが明白な場合には、処分が無効となります。
2 裁量権の審査
裁判所は、裁量処分について次の通り判断します。
「厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医師免許の取消し又は医業の停止を命ずる処分は,それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合でない限り,これを違法ということはできない」(上記名古屋地裁判決)。
あまり具体的なことを言っていないようにも思われますし、要件等が明らかにされているわけではありません。ただ、これまでの裁判例の傾向だと
・考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮したような場合
・処分をした前提に事実誤認がある場合
・平等原則が比例原則に反する処分の場合
などに裁量権の逸脱濫用が認められる傾向にあります。
3 争い方
上記の通り、裁判所が処分を違法であると取り消してくれる場合には、一定の類型があります。
ところで、医師、歯科医師の行政処分については、厚生労働省が「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方」というものを公表しています。
ここには、具体的な罪名や類型を挙げつつ、このような場合にはどの程度の処分となるか、処分を加重・軽減する事情が何かということについて記載があります。
この記載は、行政庁が内部的に定めた処分指針にすぎませんので、裁判所を拘束するものではありません。しかし、裁判所としては、この考え方に合致しているか、考え方内の他の処分との間で均衡がとれているかなどを審査しています。そのため、裁判所で争う場合のベースになるような基準ですので、基本的にはこの考え方への該当性や、考慮すべき軽減事項等を主張していくことになります。
マスコミからの取材依頼に弁護士としてはどう対応すべきか
【事例】
X弁護士は、殺人の容疑で逮捕されているAの弁護人に選任され、Aが勾留されているB警察署へ接見に赴いた。
X弁護士が接見を終え、警察署の外に出ると、いきなり多数のマスコミ関係者に囲まれ、「Aの弁護人の先生ですよね。Aはどのようなことを話しているのですか。」と尋ねられた。
Xとしてはどのように対応すればよいであろうか。
【解説】
事件自体が報道されるような大きな事件となると、被疑者、被告人本人の主張についても取材が行われます。また、連日警察署の前には多数のマスコミ関係者が取材のために訪れており、警察署に入るためにはマスコミ関係者の前を通らなければならないような状況になります。
そして、弁護士が接見室から出て警察署の外に出ると、上記の事例のようなやり取りが開始されることになります。
実際、このようなマスコミの取材に回答している弁護士の姿を報道で見ることもあります。ただし、この回答をするにあたっては、様々な面から検討をする必要があります。
1 刑事弁護の面
被疑者の主張について回答をすると、当然これを見た捜査機関側は対策を行ってくるということになります。たとえば、被疑者に完全黙秘を指示してそれが実行されている中で、弁護人がマスコミに回答していては何の意味もありません。
また、回答の内容や姿勢によっては、被害者と示談交渉を行う必要があるような事件で悪影響が出る可能性もあります。
そのため、刑事弁護という観点から見ると、本人の言い分を早期に世間に伝えるという目的がない限り、あまりメリットは大きくないものと思われます。
2 弁護士倫理の面
弁護士には、弁護士法23条により守秘義務が課せられています。本人との接見時のやり取りは、当然この守秘義務の範疇に入りますので、本人に無断でマスコミに回答したような場合には、守秘義務違反となります。実際、無断でマスコミ対応をしたことにより戒告の処分を受けた事例などがあります。
そのため、X弁護士のようにいきなりマスコミから対応を求められた場合には、ひとまずその場では回答せず、次の接見の機会に本人と協議することが適当であると考えられます。
3 本人が希望した場合
それでは、マスコミに自身の言い分を伝えることを本人が希望した場合はどうでしょうか。たしかに、本人が希望していますので、守秘義務違反の問題は生じません。もっとも、事前の打ち合わせにないような事柄を尋ねられた場合に、これを回答することは問題となる可能性があります。
しかし、マスコミに対応することは、守秘義務違反だけではなく、弁護活動の点からも問題が存在しています。回答することが本当に弁護活動上不利にならないかについても併せて検討する必要があります。
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