【弁護士が解説】委任契約書を作成せず事件処理を行った場合、弁護士職務基本規程に違反するのはどのようなケースか

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【事案】

 A弁護士は、法律相談できたXから、お金を貸した相手が返さないという相談を受けた。
 A弁護士はその中で、内容証明郵便を送付してお金を取り立ててみる方法や、支払督促、民事訴訟などの方法で返済を求めることができるという説明をしました。
 Xはその場でA弁護士に委任をしましたが、この際A弁護士は委任契約書を作成しませんでした。
 このとき、Xが委任した事項が
①内容証明郵便の文面を作成するのみで、文章の発出元はX自身とされている場合
②内容証明郵便を作成し、A弁護士がXの代理人という形で文頭に記載されている場合
③民事訴訟の委任を受けた場合
のいずれかであった場合、委任契約書を作成しなかったことが問題とならないか検討していきます。

【規程】

 委任契約書の作成については、弁護士職務基本規程30条に定めがあります。

1 弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない。だだし、委任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由が止んだ後、これを作成する。
2 前項の規定にかかわらず、受任する事件が、法律相談、簡易な書面の作成又は顧問契約その他継続的な契約に基づくものであるときその他合理的な理由があるときは、委任契約書の作成を要しない。

 弁護士職務基本規程は平成16年11月に定められましたが、それより前の平成16年2月に制定された「弁護士の報酬に関する規程」5条2項、3項にも同様の定めがありました。

 この規程によれば、原則は委任契約書を作成する必要があります。委任契約書を作成しなくてよいのは2項に定めがある例外的な場合に限られます。また、2項に定めのあるような例外的な場合であっても、委任契約書の作成が禁止されるわけではありませんから、法律相談のような明確な場合はさておき、後から委任契約書作成義務違反の指摘を受けないため、念のため作成しておくということも有効であろうと思います。

【事案の検討】

 それではA弁護士が委任契約書を作成しなかったことが問題とならないか検討していきます。
 ①のように、内容証明郵便の文面だけ作成するような行為については、「簡易な書面の作成」となる可能性が高いと思われます。ただ、簡易な書面の作成について委任契約書の作成が不要とされているのは、その場で仕事が完了し、弁護士報酬の支払いも済んでしまうような場合であるからとされています
(解説 弁護士職務基本規程第3版 109頁)。
 そうすると、たとえ①のような場合であっても、何度もやり取りを行い、文面案を作成していくような場合には、委任契約書が必要ないとまでは断言できなくなってきます。
②の場合は、もはや形式上AがXの代理をしていると見えますので、委任契約が不要となるような簡易なものではないと言えます。
 条文上は「合理的な理由があるとき」は契約書の作成を要しないとされていますが、親族など深い関係にあるからなどというようなものは理由にならないと考えられます。
 ③の場合は当然委任契約書の作成が必要となります。ただ、「委任契約書を作成することに困難な事由があるとき」は、直ちに作成せず、事由が止んだ後に作成することが許されています。この「困難な事由」がいかなる場合に該当するのかという問題については、明確な解釈などは公表されていません。
たとえば、最初に法律相談に来た際には法的な問題点が見えてこず、依頼者としては何らかの解決に向けて弁護士に依頼はしたいけれど・・・という事態は生じ得ます。この場合、1回目の法律相談時には事件の全体像が見えない関係で、報酬等が定められず、契約書は作成できないという場合も考えられます。
 このような場合に委任契約書を作成せず事件処理をすることが「困難な事由」に該当するかどうかについて確定的な判断があるわけではないですが、少なくとも法律相談料として毎回支払いを受けるとか、仮に対外的なことをしなければならないような場合にはその点に限って委任契約書を作成するなど、回避する方法は十分あると思われます。そのため、徒に契約書を作成せず、相談を継続していくようなことは危険であると考えられます。

 いずれにしても、委任契約書作成の義務があるケースで、これを作成しなかった場合には弁護士職務基本規程違反となります。そして基本規程違反は懲戒事由となりますので、何らかの懲戒処分を受けることになります。これまで委任契約書不作成で処分を受けているケースは、報酬や説明義務の点などほかの問題と一緒に併せて処分を受けていることがほとんどです。そのため、委任契約書不作成のみでどのような処分を受けるかは一概に評価できませんが、弁護士としての基本的な義務に属するものであると考えられますので、戒告の処分は十分あり得るところです。

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