【弁護士が解説】事件の相手方に対する言動で懲戒請求を受けるのか

【はじめに】

 弁護士として民事訴訟、刑事訴訟、その他対手方との交渉事をやっていれば、事件の相手方や、関係者、裁判官、検察官等に対して様々な思いを持つことがあるでしょう。自分の中で思っているだけであり、実際の行動や言葉に出ることがなければ、弁護士懲戒の問題になることは通常考えられません。
 しかし、もし実際に相手方や関係者に対して何らかの行為に出てしまった場合や、自分の思っていることをそのまま言ってしまったような場合には、品位を欠く言動をしたと言うことで懲戒処分の対象になってしまう可能性があります。
 今回は、相手方に対して発した言葉が原因で懲戒請求をされた場合をモデルにして、解説していきたいと思います。

【事例】

 A弁護士は、登録4年程度の弁護士であり、法律事務所に勤務しています。勤務している法律事務所は、交通事故や債務整理のほか、私選の刑事弁護などもある勝っています。
 A弁護士は、登録4年程度ということで、民事事件、刑事事件共に様々な種類の事件を経験し、自分でも「一通りの事件をやってきたな」という認識でいました。依頼人との関係で何かクレームが出るというようなこともなく、書面の起案など普段の仕事に関しても事務所内からの評判は良かったようでした。そのため、A弁護士は、「自分もなかなか成長した。それにしても、周りの弁護士はなかなか仕事が出来ない人が多い。自分の事務所以外の弁護士と来たら期日は守らないし書面もスカスカだ。よくそれで依頼人から弁護士報酬を領収できるものだ。自分事務所の弁護士にしたって、自分より全然働かないくせして自分とそう変わらない給料をもらっている。全く不公平なものだ」等と普段から考えるようになっていました。
 ある日の法廷で、A弁護士は、弁護士登録をしてから30年ほど経った相手方代理人Bから、「貴職の主張はなかなか法的構成が見えてこない。やはり君のバッジの色がまだ金ピカみたいだし、経験が浅いみたいだね」というようなことを言われました。
 それに対してA弁護士は、「どこに目付けてんだクソジジイ。純金バッジだ。そんなことも見抜けねえから証拠もスカスカだし敗訴同然の和解勧奨をされるんだ。」と言ったところで、裁判官が「それくらいで」とA弁護士に対して注意をしました。その後もA弁護士は、「何だお前は。弁護士バッジが酸化して真っ黒になっているから偉いとでもいうのか?そんなものは登録して1年の新人だって家にあるもので作れる。お前はカネがないから真っ黒の弁護士バッジでがんばってるんじゃねえのか?」と続けました。法廷には傍聴人の姿はありませんでした。
 後日、A弁護士は相手方のB弁護士から懲戒請求をされました。
 なお、A弁護士が言う通り、A弁護士は実際に純金バッジの貸与を受けています。また、当該訴訟で相手方代理人B弁護士は、ほとんど敗訴といえるような和解勧奨を受けています。
(事例は、フィクションであり、実在の弁護士、依頼者、その他個人、会社、団体とは一切関係ありません。)

【対応方法】

 このように訴訟活動の当否とは直接関係がない弁護士の言動に関する事案では、基本的に全く同じ言動で懲戒を受けることはありません。
 しかし、懲戒処分を受ける可能性が高いか低いかを判断するに当たって、ある程度共通する判断要素があるように考えられます。

 関係すると思われる規定は以下です。

弁護士職務基本規程
(名誉と信用)
第六条 弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。

弁護士法
(懲戒事由及び懲戒権者)
第五十六条 第1項 弁護士及び弁護士法人は、この法律(弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士及び外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士にあつては、この法律又は外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律)又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。

 訴訟活動等にあたって必要性がない言動での弁護士懲戒の事例は複数ありますが、懲戒処分がなされている事例で共通しているのは、相手方が特に何もしておらず、相手方に全く落ち度がないような事例です。特に、相手方から侮辱的言動を受けていないのに上記のような言動を行った場合や、唐突に上記のA弁護士のような言動を行った場合は懲戒処分を受けやすいと考えられます。また、相手方から「懲戒請求をせざるを得ないかも知れない」と言われたのに侮辱的言動を続けた場合も懲戒処分の可能性が高まりやすいと考えられます。
 また、周囲の状況も考慮されている可能性が高いです。法廷で傍聴人が一定数いるような場合や、裁判長からの注意や訴訟指揮が有ったような場合で侮辱的言動を行い、懲戒処分を受けている事例が散見されます。
 特に訴訟活動等にあたって必要性がない言動での懲戒請求を受けた場合は、当該言動が行われた経緯や、状況についての主張をよく検討することが、懲戒処分を受ける可能性を下げる上で重要となってくると考えられます。

【最後に】

 弁護士が懲戒請求を受けた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのはいつもどおり出来たとしても、当事者として紛争にあたる場合には思った通りの活動が出来ないということはあり得ます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
 加えて、勤務弁護士について懲戒請求を受けた場合に、実際に懲戒処分がなされれば事務所全体の評判に関わる可能性があります。当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性もあります。
 勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。

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